大切なものは

第 32 話


「エナジーが尽きるなら、補充すればいい」

あっさりと答えたジュリアスに、スザクは眉を寄せた。

「だから、その補充が無いんだろ」
「あるだろう」
「どこに!」
「敵のKMFに」

周りが、息をのんだのが分かった。
それを聞き満足気にジュリアスは口元に弧を描き、当然のように続けた。
黒の騎士団は、ブリタニアの機体を奪い戦力にするが、ブリタニア軍は使えない機体を簡単に捨ててそれで終わり。捨てられた武器、機体、資材、これらを回収し利用するという考えがない。そんな事をしなくても、次々と新たな兵器が与えられるから。

「敵のKMFは我がブリタニア軍のKMFと互換性のあるエナジーパックを使用している。これから向かう場所なのだから、そこで補給すればいいだけだ」

食料もそう、武器弾薬も、現地で調達すればいい。
これが無人の基地で、敵兵が全てドローンなら食糧の補給もできずエナジーの互換性も無いため、さてどうするかと悩む所だったが、欲しいモノが全て用意された基地など、こちらから見れば多少手間のかかる補給基地のようなものだ。スザクがいれば、何も問題はない。
甘いのだ、この犯人は。
気付いた時にはエナジーが付き、食料もなく人間を殺せる程度の武器しかないならまだしも、エナジーが少ない事を早急に知らせ、上手くやりくりすれば敵基地にたどり着けるだけのエナジーと、3日分の食料まで用意してくれた。KMFは無傷で、こちらも短時間とはいえ戦闘出来るだけのエナジーがある。
さらには銃火器も僅かとはいえあるし、手持ちの装備もそのまま。
戦えない軍師と騎士一人だけではなく、技術者と騎士二人も付けてくれた。
あとはどう作戦を組むかだけだ。
渡されていた資料とは異なる地形、配置。
軍事基地は航空写真などの対象外だが、敵の基地にハッキングすればいいくらでも資料は引っ張り出せる。それを出る端末も無事で、それをやりきるだけのバッテリーもあった。これだけ距離が近ければ情報を引き出す作業も難なくできたので、敵の基地内部の資料も既に頭に入った。
これだけ揃っているのに白旗を上げるなど馬鹿馬鹿しい。

淡々と答えるジュリアスの言葉に、もしかして助かるのか?と、絶望一色だった車内が明るくなった。僅かなエネルギーと物資、そして雪に閉ざされた土地という最悪の状況なのだから、生存すら不可能だと普通なら考える。だが、ナイトオブラウンズ唯一の軍師であるジュリアスが、慌てることなく平然とした様子で問題ないと、この作戦は成功すると言えば、可能なのでは?という思いが湧いてくる。
状況が変わったわけではない。だけど、ジュリアスの言葉一つで変わった空気に、スザクは驚きを隠せなかった。
そして、理解した。これが、ゼロなのだと。
日本人は絶望していた。抵抗など無意味なのだと。超大国相手に、勝てるはずがないのだと。諦めて、絶望し、ブリタニアの奴隷として生きるしか道はないのだと考えていた。だが、ゼロが現れてから日本人は変わった。ただ騒ぎを起こすだけのテロではなく、正面からコーネリアと戦争を行ったのだ。普通に考えれば不可能だった事を、ゼロはやった。
だから人々はついていくのだ、ゼロに。
ギアスで操られているからではなく、彼の行った奇跡を知っているから。
絶望の中で奇跡を起こすのがゼロなのだ。
だから、この程度の絶望、彼にとっては日常茶飯事なのかもしれない。
ギアスという忌むべき力が無くても、戦うだけの頭脳が、知略が本当にあるのかもしれない。いや、ルルーシュは子供のころから聡明だった。ギアスで奇跡を起こしたのではなく、ルルーシュが奇跡を起こすのだ。

「この作戦の要はランスロットだ」
「解った」
「時間を長引かせても意味はない。明日、作戦を決行する。今の内に休んでおけ。明日は、忙しくなる」

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